コンサルティング力の高さを示せる資格の1つが中小企業診断士
国家 | 目安勉強時間 | 1日5時間勉強で | 1日2時間勉強で | 難易度 |
1000時間程度 | 200日 | 500日 | A |
経営についての理解を深めるコンサルティング分野で唯一の国家資格
中小企業の経営に対するコンサルティングを行う中小企業診断士の資格は、MBA(経営学修士)と比較されることがあります。
MBAでは、大学院で広く学問として経営学を学ぶことになるため、経営や経済などの分野の研究や実践に生かせる知識を一般的には2年程度の期間で学ぶものです。これにより、MBAを取得しているという権威性を持つことができますが、MBAは学歴ですので、卒業に必要な単位を取得すれば修士号が取れることと、そのMBAをどこの大学で取得したのかが問われる可能性のあることが特徴です。
一方で、中小企業診断士は資格のため、取得できればそれだけで一定の実力を証明するものとなります。比較的新しい国家資格ですが、難関資格として知られているものでもあり、2次試験の筆記試験についての難易度の高さから、合格までに時間がかかるという人もいます。
中小企業診断士の仕事内容がコンサル業務であることや、資格の新しさから、なかなか一般には知られていない資格であり、まだまだこの資格で独立開業をして成功している人は少ないのが現実です。
ただ、国が経済成長を後押しするためにも中小企業の業績アップを目指しています。だからこそ、中小企業診断士という資格は国家資格として認定され、少しずつですが認知度が上がってきている資格であり、中小企業の側も、仕事の効率を上げ、業績をアップさせることができる実績のあるコンサルを求めるようになってきています。
実際には、コンサルタントになるのに、特に明確な資格や学歴は必要ありません。投資の世界や経営などの利益を追求する世界においては、実力が全てという面もあります。
ですが、技術やテクニックを使用することで、ある一定の範囲内までは経営の状況を良くすることができることができますし、経営のノウハウは確かに存在します。
議事録を作る、顧客管理を徹底する、経営内容を数値で見える化するという事は、上場企業ならば必ずやらなければならない事であり、当たり前にしている事かも知れませんが、中小企業の中には、そうした当たり前がまだ根付いていない場合もあるのです。
経営には、いくつかの段階があります。そのため、起業をしてすぐの会社が必要な支援と、人材が増えて業績が伸び始めた会社が必要な対策と、安定経営に入った企業がすべきことと、業績不振で窮地に立たされている企業が立ち向かう壁とでは、対応の仕方やすべき事は全く異なります。当然、業種によっても対応は異なるため、経営の知識に詳しい専門家が必要なのです。
得意な分野のコンサルタントとして活躍する土壌は広くあり、自分次第で稼げる仕事でもありますが、誰もが資格を独立のために使用する訳ではありません。7割程度の人は、資格を企業内で生かすために取得しています。管理職として働いている人は、自分自身が企業内の経営状況を分析する立場にあるため、経営について分析できる視点を求めて資格を取得するのです。
どうしてもコンサルタントとして活躍したいけれども、資格試験が苦手という方の場合には、MBA(経営学修士)の資格や、講座を受講することが前提の証券アナリストなどの財務や資産運用に強い資格を取得する方法もあります。
中小企業診断士として独立する場合には、伸び盛りの会社ばかりではなく、窮地にある会社でお金をもらってコンサル業務を行うこともあるため、良い結果ばかりが出るとは限りません。そのため、熱意と情熱がなければ独立開業して続けられる仕事ではないと言えるでしょう。
しかし、経済の根底を支える多くの働く人は、中小企業の勤め人です。そうした人々がより良く暮らせるための基盤づくりをしたいと考える人こそ、ぜひ目指して活用して欲しい資格の1つと言えるでしょう。
中小企業診断士の資格を生かせる仕事と就職先
コンサル専門の会社に就職するか独立してコンサルタントとして活躍する
コンサルティング専門の会社に就職する場合、基本的には首都圏に勤務することになります。
しかし、それでもいつも募集がある訳ではないため、募集があった時にアピールできる資格や経験が、中小企業診断士以外にもあるとプラスに働きます。税理士、公認会計士、社会保険労務士などの国家資格をあわせて受験し、取得する人もいます。
コンサルタント業務では、コミュニケーション力の高さや、情報発信力も問われるため、ツイッターやサイト運営、メルマガ発信などを行っておくことで、自分の集客力の高さを示すことも大切なアピールポイントとなります。
企業内の診断士として活躍する
すでに就職している企業内や、転職先の企業で中小企業診断士の資格を生かして管理職として活躍する方法があります。
企業内で管理職の立場に就いている人が、改めて学習を行い資格を取得することで、自分の会社の経営状況がはっきりと見えてくるという事もあります。現場から離れるようになり、管理職として自分が会社に何ができるのかという部分で悩みを抱えている人にとっては、資格取得を目指すことがその解決の一歩になるかも知れません。
資格取得を通じて理解を深めるだけでなく、様々な提案業務を行えるようなデータ処理や書類作成の技術も身につけるように意識すると、実践に生かせる実力が身につくでしょう。
中小企業診断士の受験資格と日程と費用のまとめ
中小企業診断士の資格を取得するには、まず最初に、第1次試験に合格し、その後第2次試験に合格して実習・演習を経ると中小企業診断士として登録することができます。
以下の資格受験要項については第1次試験の内容を記しています。
誰でも受験することができます。
応用情報処理技術者試験、弁護士、税理士、公認会計士などの資格を取得している場合、一部科目が免除となります。
科目合格の免除有効期間は、3年間
マークシート式:四肢択一または五肢択一
7科目受験
- 経済学・経済政策
- 財務・会計
- 企業経営理論
- 運営管理
- 経営法務
- 経営情報システム
- 中小企業経営・政策
- 経済学・経済政策:マクロ経済学とミクロ経済学を中心に学習
- 財務・会計:財務諸表等から得られる数値(利益・資産・資金等の状況)を理解・分析するために必要な知識を習得:2次試験の「事例Ⅳ(財務・会計)」に対応
- 企業経営理論:事業領域の決定に関する「経営戦略論」、経営資源の人に関連する「組織論」、消費者のアプローチに関連する「マーケティング論」を学習:2次試験の「事例Ⅰ(組織【人事を含む】)」と「事例Ⅱ(マーケティング・流通)」と関連
- 運営管理:製造工程や品質管理等を中心とした「生産管理」と、店舗施設や立地、販売・流通等を中心とした「店舗・販売管理」を学習:2次試験の「事例Ⅱ(マーケティング・流通)」と「事例Ⅲ(生産・技術)」に対応
- 経営法務:ビジネス関連の法律を中心に、諸制度、手続等に関する実務的な知識を学習
- 経営情報システム:情報技術と情報システムの基礎を学習
- 中小企業経営・政策:企業に対して的確なコンサルティングを行うための知識を身に付ける
中小企業診断士の1次試験の内容の詳細と2次試験について
1次試験の試験内容は、マークシート式です。2次試験につながるための基礎的な内容が含まれています。
人によっては、科目免除の対象者となりますが、合格基準は全ての科目の合計が60%以上、各科目が最低でも40%以上となっているため、全体の科目の点数の底上げのために、得意科目は受験した方が良い場合もあります。
各科目の受験内容の詳細は以下の通りです。
経済学・経済政策
- 国民経済計算の基本的概念
- 主要経済指標の読み方
- 財政政策と金融政策
- 国際収支と為替相場
- 主要経済理論
- 市場メカニズム
- 市場と組織の経済学
- 消費者行動と需要曲線
- 企業行動と供給曲線
- 産業組織と競争促進 等
財務・会計
- 簿記の基礎
- 企業会計の基礎
- 原価計算
- 経営分析
- 利益と資金の管理
- キャッシュフロー
- 資金調達と配当政策
- 投資決定
- 証券投資論
- 企業価値
- デリバティブとリスク管理 等
経営戦略論
- 経営計画・管理
- 企業戦略
- 成長戦略
- 経営資源戦略
- 競争戦略
- 技術経営
- 国際経営 等
組織論
- 経営組織の形態と構造
- 経営組織の運営
- 人的資源管理 等
マーケティング論
- マーケティング計画と市場調査
- 消費者行動
- 製品計画
- 価格計画
- 流通チャネルと物流
- プロモーション 等
生産管理
- 生産管理概論
- 生産のプランニング
- 生産のオペレーション 等
店舗・販売管理
- 店舗・商業集積
- 商品仕入・販売(マーチャンダイジング)
- 商品補充・物流
- 流通情報システム 等
経営法務
- 事業開始、会社設立及び倒産等に関する知識
- 知的財産権に関する知識
- 取引関係に関する法務知識
- 企業活動に関する法律知識
- 資本市場へのアクセスと手続 等
経営情報システム
- 情報処理の基礎技術
- データベースとファイル
- 通信ネットワーク
- システム性能 等
- 経営戦略と情報システム
- 情報システムの開発
- 情報システムの運用管理
- 情報システムの評価
- 外部情報システム資源の活用
- 情報システムと意思決定 等
中小企業経営・政策
- 経済・産業における中小企業の役割、位置づけ
- 中小企業の経営特性と経営課題 等
- 中小企業に関する法規と政策
- 中小企業政策の役割と変遷 等
2次試験では筆記により応用力を問う試験を行う
2次試験は、基本的には1次試験合格を達成した年と、その翌年に限り受験することができます。そして、記述試験で一定の基準を満たした人だけが口頭試験を受験することができます。
10月中旬〜下旬頃に札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・広島・福岡の 7地区で実施され、受験料は17,200円です。
2次試験の出題形式は、企業の「事例」が与件文(2〜4ページ)として提示され、その事例に関する問題が4〜5問程度出題されます。字数は最大で200字程度とそこまで多くはありません。
A | 組織(人事を含む)を中心とした 経営戦略および管理に関する事例 |
B | マーケティング・流通を中心とした 経営戦略および管理に関する事例 |
C | 生産・技術を中心とした 経営戦略および管理に関する事例 |
D | 財務・会計を中心とした 経営戦略および管理に関する事例(計算が多く得点源) |
4つのテーマに分かれて出題されることになります。出題者の意図を汲むことが必要となるため、予備校などを利用して出題意図を理解するための学習が必要となります。財務・会計の部分については、計算が多く、確実に得点に結びつけやすい分野です。
中小企業診断士に合格するための学校選び
中小企業診断士は科目範囲が広い難関資格であることもあり、ほとんどの人が少なくとも2次試験については予備校で勉強をして試験に臨みます。
TACやLEC、資格の大原などの大手予備校の授業が充実しています。中小企業診断士の資格試験に特化した、KECビジネススクールや、通信講座を選ぶ人もいます。
ハローワークの特定一般教育給付金の支援が利用できる講座が多くなりますので、働きながら資格取得を目指す人や、仕事をしていて一度辞めて資格を目指す場合には、支援制度を利用しましょう。
学校名 | 資格の大原 | TAC | LEC |
特徴 | DVDとWEB通信、通学があります。 通学3大勢力の1つです。(TACかLEC
| DVDとWEB通信、通学があります。 通学3大勢力の1つです。(TACかLEC
| DVDとWEB通信、通学があります。 通学3大勢力の1つです。(TACかLEC
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金額 | 通信・通学:30万円前後 | 通信・通学:30万円前後 | 通信・通学:30万円前後 |
KECビジネススクールを含む全ての学校で、対策講座の価格は30万円前後です。7科目も試験分野があるため、科目をどう履修するかなどにより、講座が異なります。自分の得意科目は受けない、1次試験は予備校なしにするなど、受験のスタイルによって、予備校でカバーする範囲は限定しましょう。
2次試験については、何らかの形で対策を行うのがベストです。
通信講座の場合、6万円~20万円程度で受講することができます。アプリ学習で有名なスタディング、宅建合格率の高さで有名なフォーサイト、通信資格講座老舗のクレアール、大手通信講座ヒューマンアカデミーで中小企業診断士の通信講座を受けることができます。通信講座とはいっても、模擬試験やテストなどで受講生との間に質問サポートなどを設けているため、不明な点は質問することができること、学習場所を選ばずに学べることはメリットです。
スタディング | フォーサイト | クレアール | ヒューマンアカデミー | アガルート | |
受講料 | 60,000円程度 | 60,000円程度 | 14万~17万円程度 | 22万円程度 | 7万円程度 |
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どの通信講座でも、苦手な科目だけを選択して割安で受講するコースがあります。通信講座は、申込時期やキャンペーンで価格が前後する場合があります。
※気になっている学校の資料は取り寄せて見比べましょう。ほとんどの学校がおためし講座を開講しています。先生やテキストとの相性は大きいので、学校から選ぶというより、分かりやすいテキストがある講座や、教わりたい先生のいる学校を選びましょう。
1次試験と2次試験の合格率はそれぞれ20%前後で推移している
1次試験の合格率と合格基準
1次試験については、3年以内に7科目全てを合格する計画で、順に科目合格をする計画で受験することも可能です。 科目合格基準は、満点の60%を基準として、試験委員会が相当と認めた得点比率とされています。
第1次試験の合格基準は、総点数の 60% 以上であって、かつ 1科目でも満点の 40% 未満のないことを基準とし、試験委員会が相当と認めた得点比率とします。
合格率は20%前後で推移しています。
2次試験の合格率と合格基準
2次試験の合格基準は、筆記試験における総点数の 60% 以上でかつ 1科目でも 40% 未満のものがない者であって、口述試験における評定が 60% 以上のものです
合格率は20%前後で推移しています。
1次試験、2次試験と、口述試験を含めての全体での合格率は、4~6%です。
2年程度で合格する人が多い資格試験です。
中小企業診断士への求人と年収・時給の目安
中小企業診断士として独立した場合の年収の目安は200万円~1,000万円程度とされていますが、独立開業している中小企業診断士の数は少なく、中小企業診断士だけの資格で独立して稼げる人は少ない資格です。
コンサルタント業務を行う企業の求人で中小企業診断士の資格取得者が募集されている場合には、350万~700万円程度の求人が多くなります。
コンサルタントとしての実力次第では、高収入を狙うこともできますが、人脈や集客力、コンサルの実績などを積み上げることでそれが可能となるのであり、中小企業診断士の資格が収入を呼ぶことはないと考えた方が良いでしょう。
資格を生かせるかどうかは自分次第ですが、年々認知度が上がっている資格のため、資格取得者ということで信頼してもらえるケースは今後増えて行くと思われます。
ダブルライセンス・トリプルライセンスでコンサル業のプロになる
中小企業診断士に加えて、社会保険労務士の資格を取得している場合には、より中小企業のコンサルタントとしての業務を行いやすくなります。
また、公認会計士や税理士として独立している人が、中小企業診断士の資格を取得して財務・会計分野の企業の顧問を務めるといったケースもあります。
他にも、証券アナリストやCFA(ファイナンシャルプランナー)資格と合わせて取得するケースもあります。
中小企業診断士の資格を利用して、コンサルタントとして活躍したいと考えている人は、ただ資格が欲しいというよりは、企業のために働きたい、経済を盛り上げたいという気持ちが強い人だと思います。
組織の外側に、的確なアドバイザーが欲しいと思っている中小企業は案外多いはずですが、まだまだコンサルタントと企業を結ぶパイプができあがっていない面があるため、今後を期待できる職業でもあります。ただ、儲けることよりは、相手に尽くすことを主体にする仕事となるため、一緒に頑張りたいという思いの強い人こそが生かせる資格だと思います。