ネアンデルタール人と現生人類の究極の違いは何か【サピエンス全史より】
人類が誕生したのは250万年前の東アフリカ
人類は、下記の図のように進化しました。
類人猿から生まれた2人の娘のうちの1人がホモ属の母となり、ホモ属である猿人を経て、その後人類へと進化する過程を辿ります。
類人猿が猿人へと分岐するのが約600万年前であり、その後は猿人としての時代を迎え、250万年ほどまえの東アフリカにおいて、人類が誕生しました。
共通の祖先を辿って人類史を逆行すれば、人も、いつかは海へと戻り、原生生物となり、ついにはただの分子という物質に戻ります。ただ、現在の人間が、魚と交配して子供を生むことができないように、進化には、ある分岐点を過ぎると、繁殖力がなくなるという特徴があります。
馬とロバは比較的最近になって共通の祖先から別れた事もあり、子供を生むことはできます。
ただ、積極的に交わろうとはしません。それは、馬とロバから生まれた、ラバは、繁殖力を持たないからです。つまり、馬と、ロバは、全く別の種ということになります。
人類はまだ発見されていない人類も含めて多くの種類がいた
東アフリカで250万年前に人類が誕生すると、東アフリカを中心に、次々と人類が誕生していきます。
ホモ属に属するものたちが人類ですが、それぞれに、交配する能力があったかどうか、交配した後の子供が繁殖力があったかについては、分かっているものもあれば、まだ解明されていないものもありますが、交配はできたとしても、わずかにしかされなかったというのが今分かっている範囲の事実です。
下の図に示されるように、人類は、とにかくたくさん誕生しています。
人類発祥の地である東アフリカを中心に、見つかっていないものも含めて多数のホモ属の種族がいたとされていますし、北アフリカへ旅立ったもの、ヨーロッパへ、アジアへとアフリカを離れて広がった人類もたくさんいます。
中でも、アジアの東側まで広がって繁栄したホモ・エレクトスについては、ホモ・サピエンスがアジアに広がるまでの200万年近くというとんでもない長い時間を生きた特異な種です。
ホモ・ネアンデルターレンシス(以降ネアンデルタール人)は、ホモ・エレクトスよりも後に生まれ、西アジアなどの一帯において、先に暮らしていたホモ・エレクトスを滅ぼし、ヨーロッパや西アジアに広がったとされています。
この間、東アフリカでは次々と新しい人類が生まれては消えていったとされており、その数や実体はまだまだ明らかになってはいませんが、現生人類である私たちの祖先のホモ・サピエンスが誕生したのは今から15万年程前と言われています。
あちこちの地域に散らばって、環境に適応して変化していった人類の見た目は、種族ごとにかなり異なっています。
寒い地域に移動したネアンデルタール人は、大柄で、太陽を取り込みやすい身体に変化しましたが、アジアの地域では、小柄で、熱を吸収し過ぎない茶色~黒っぽい肌質に変化します。
中でも、環境適応という意味で面白いのは、ジャワ島からフローレス島に移動したホモ・フローレシエンシスです。海面が低い頃に島に移動した人々の中で、海面の上昇により取り残されてしまった人々が進化を続け、少ない食料で生き延びられるように小型化、ついには、身長1メートル、体重25キロを平均とする人類になりました。
進化の過程では、適応できないものたちから先に死んでいくため、同じ形質(身長や体重や見た目など)が次の世代、また次の世代と、あっという間に広がるようになります。
私たち現生人類も、パソコンやスマホなどの電子機器への適応により、100年後には全く違う見た目になるのではないか(一説には、角が生えてくるとも言われています)、と予測する人もいますが、こうして時代と環境に適応した人類たちを、一気に滅ぼしてしまったのが、現在の人類であるホモ・サピエンスです。
人類の共通の特徴は3つ。脳と、直立二足歩行と、火を扱うこと
どのホモ属も、脳がかなり大きいのですが、ネアンデルタール人について言えば、現生人類であるホモ・サピエンスよりも大きいものでした。
しかし、なぜこうまでして脳を大きくしなければならなかったのでしょうか?
脳のエネルギー効率の悪さは有名ですが、何もしない時でさえ、消費エネルギーの25%もの割合を私たちは、脳のために当てています。
脳の消費エネルギーからみるエネルギー効率の悪さを考えた上で、ようやく元が取れるようになったのは、近代文明に入ってからです。人類は、ほとんど200万年もの間、脳の進化によるエネルギー消費量の増加で苦しんできたと言えるのです。

人類は、道具を発明したじゃないか! 脳がなければできないことだ。
そう言いたくなるのですが、ホモ・エレクトスは200万年近くも繁栄しながら、石のナイフ以外の道具を発明せず、そのナイフも、ほぼ同じ形でずっと変わることはありませんでした。ナイフ一つのために、巨大な脳を維持してきたのか、本当はなぜ脳が必要だったのかの理由は、まだ分かっていません。
高い所に視点を持っていけるようになったことで、獲物を発見しやすくなり、さらに、両手が空いたことで、手先の神経が進化し、それは脳の発達も助けます。
しかし、この、視野と素晴らしい手を獲得するために、人類は、肩こりと腰痛に悩まされる事になります。さらに、女性にとっての苦難がここから始まります。
二足歩行のために、腰まわりを細くする必要があった人類は、赤ん坊が脳の発達で頭が大きくなっているにもかかわらず、狭く、細くなった産道から子供を生まなくてはならなくなり、結局、早産という形を選択することになりました。
猫も、馬も、生まれてすぐに歩いたり、お乳を飲んだりできます。同じ様に、猿人であった頃、類人猿んであった頃には、人間も、自活できる子供を生んでいました。しかし、人類となってからは、遅く生むほどに、子供と母親の死亡率が上がり、結局、まだ未熟で、自分で歩く事もできない子供を生むしかなくなってしまったのです。
しかしこの、自活できない、教育をしなければならない子供が生まれるようになった事で、人は、社会生活を行うようになります。助け合わなければいけない社会ができたのも、未熟な状態で生まれる子供ができたからであり、さらに、未熟で生まれるからこそ、子供にあらゆる教育が行えるのです。
しかし、思考力の源である脳が活躍し出すのは、250万年前に人類が誕生してからずっと後の事です。40万年程前に、大型の動物の狩りをはじめるまでの長い間、石器の利用方法は、大型の動物やハイエナが残した残骸の骨から、骨髄をすする穴を開く傷を付けるためでした。
80万年頃から、しかし、はっきりと使用されるようになったのは30万年ほど前からである火こそが、さらなる人類の脳の発達を助けたと言われています。
調理した物を食べる場合には、長い腸が必要なくなります。腸は次第に短くなっていき、腸のエネルギー消費量を下げ、それを脳に回すようになりました。

火と道具がそろい始めたのだから、そろそろ人類の大きな進化があるのではないか?
そんな予想とは反対に、ホモ・サピエンスが表舞台に出てくるまでの人類は、他の動物の陰に隠れて生きるような存在でした。びくびくしながら、どうにか暮らしている。そんな、どちらかと言えば、食物連鎖の下の方にいたはずの人類が、どうして突然、食物連鎖の上位に躍り出たのでしょうか?
ホモ・サピエンスの、嘘を本当にする力がネアンデルタール人を滅ぼした
およそ15万年前に、ホモ・サピエンスが東アフリカで生まれた頃、人類は全ての種を合わせても100万人程度だったと言われています。
火を使うことも、道具を使うこともでき、すでに大型の動物を捕らえる術を持っていたにもかかわらず、それほど世界に広がってはいませんでした。
ホモ・サピエンスが、東アフリカを旅立ったのは、7万年程前と言われていますが、この頃から、人類の分布図ががらりと変わりはじめます。
当時、ヨーロッパや西アジアに暮らしていたネアンデルタール人は、絵を描き、障害者や老人を大切にする文化を持っていました。(証拠となる骨や絵画が見つかっています)
そんなネアンデルタール人の領域に、10万年ほど前に侵入したホモ・サピエンスは、ネアンデルタール人との戦いに敗れています。
この当時のホモ・サピエンスは、まだ勢力図を一気に書き換えるほどのある特殊な能力を持っていなかったとされています。
その特殊な能力とは、言語による認知能力です。
言語を話すことのできる動物は、人間に限らず多く存在します。しかし、その認知の仕方が、他のどんな動物とも、同じ属にある他の人類とも違って進化を遂げたのが、今の人間ではないかと言われています。
サルに、天国に行ったらいくらでもバナナをあげるよ、だから今手に持ってるバナナくれる? と言っても、例え言葉の意味が通じても、すぐに断られるでしょう。

ムリ。ヤダ。天国って何?
しかし、今の人間は、天国での幸せを信じて、お金をいくらでもつぎ込むことができます。神社にお賽銭をするのも、そうした背景があるからです。
人は、心から全く疑うことなく、見えていないものや、実在するか分からないものを信じることができます。
この、虚構を信じる。嘘であっても、それが嘘だと全く認識せずにいられるというのが、人間の特異な能力です。
コペルニクス的転回のように、つい昨日まで、地動説を信じていた人が、明日には、天動説を信じられるのは、人間だからです。
この、虚構を信じるという力は、ホモ・サピエンスを爆発的に強くしました。
どれだけ頑張って把握しても、せいぜい人は、150人程度の集団を保つことしかできないと言われており、これは、現代の世界でも変わりません。それ以上の集団には、虚構による認知が必要になるという事です。
それは例えば、法律や、社内規定などのルールであったり、神という、存在しないものを信じる力です。そうしたルールなどの認識なしに、150人以上の集団の統制は取れません。
神がいる。それが共通に認知されると、とてつもない数の人を一気に動かすことができます。
この、虚構の力を利用したホモ・サピエンスは、ネアンデルタール人などの人類にはとうてい訳の分からないやり方で、次々と他の人類を死に追いやったようです。
ネアンデルタール人や、デニソワ人などの人類の血は、ごくわずかですが現生人類のDNAの中に残されています。(人種や住んでいる地域によって、混じっている血は異なります)
ですが、それは、本当にごくわずかで、種として、交配し、さらに繁殖力のある子供を残せる十分なレベルでネアンデルタール人と、ホモ・サピエンスが交わることはなく、たまたま、偶然、めったにはないけれども、ネアンデルタール人と、ホモ・サピエンスの間に子供が生まれることもあった、という程度にしか、交配はされていないようです。
それほど、種としてもう交われないレベルまで、異なる種になりかけていたのかも知れませんし、ホモ・サピエンスにとって我慢ならないほどに、ネアンデルタール人やその他の人類は、何かが違う、と認識せざるを得ない生き物だったのかも知れません。
いずれにしても、ホモ・サピエンスは、暴力的な形で人類の多くを滅ぼした証拠がいくつか出ていますし、そうでない場合にも、他の人類の生活圏を徐々に奪い、自然に淘汰されるまで追いやってしまったようです。
サルも、嘘を付くことがあります。

あ! ライオンが来た!
そう叫んだサルは、驚いて逃げた隣のサルが落としたバナナを奪い取ります。
しかし、嘘は嘘だと分かります。ライオンが来ないと分かったサルは、戻って来てバナナを奪い取ろうとするかも知れません。
しかし人間の場合には、真っ赤な嘘であっても、死ぬまで本当の事だと信じて生きる人も大勢いるのです。
この、嘘を本当にしてしまう技術こそが、今の人間が生み出した特殊な能力であり、それこそが、他の人類とホモ・サピエンスであることに差を見出す要素となり、ネアンデルタール人を含め、多くの他の人類を滅ぼすことになったのかも知れません。
こうして、ネアンデルタール人は、認識の壁によってごく一部には血を残しながらも、完全に滅びてしまったのです。
※これは、サピエンス全史を基に、その他の情報も参考にしてまとめた人類史の第一回目の記事です。
興味のある方はぜひ読んで見てください