怒りは防衛本能のため感じて良いもの。ただ怒りの裏側にある自分の本音を見抜く必要がある
カッとなるのは自己防衛の本能のせい。人は不当な扱いには怒りを感じるようにできている
怒りとは、ホルモンの作用です。一瞬の間に怒りホルモンが分泌されることでカッとなり、「何かが間違っている!」「これは納得できない!」という状況を察知し、危険を回避するためのサインとして、怒りやイライラという反応を起こします。
人は、防衛本能がはたらく時に怒りを感じるようにできています。
怒りの多くは、正しい形できちんと解消されれば消えていきます。けれど、もしも間違った方法で対処してしまうと、怒りはストレスとなり、時間をかけて身体を蝕むことになります。
怒りをコントロールしたいという人の多くが「怒りを感じなくなりたい」と考える傾向にありますが、怒りとは危機察知能力の一つであることから、全く怒りを感じないというのは危機回避の能力を低くするために生存率を低くしてしまいます。そういう意味で、怒りを感じない人間になることは、むしろ危険な事です。
つまり、怒りとは、危機回避のためのメッセージが隠れているものなので、感じてはいけないものではなく、元来感じていいものなのです。ですが、怒りは、感じたままに外側に出すと、人間関係を悪化させることがあります。
怒鳴ったり、舌打ちをしたり、無視したりするといった、怒りを行動に表してしまうと、場の空気が悪くなったり、人間関係を修復できないほどに壊してしまう場合もあります。つまり、怒りを感じることが悪いのではなく、感じた怒りをそのまま外に出してしまうことが良くないことなのです。
怒らない人の方が良い人というイメージがありますが、「この人は怒らないよ。優しいよ」という人が怒りを感じない人かといえば、そうではありません。怒りを感じないことと、怒りを外に出さない事は全く違います。怒らない人というのは、怒りを上手にコントロールできる人のことであり、怒りを外に出さないための倫理的な判断能力と、決断に長けている人のことです。
身体に傷が付くと、人は痛いと感じますが、この痛いと感じる力には、血が出ている、治療を必要とする病気があるという事を知らせるサインの役目があります。この、痛みを感じる能力がなければ、痛いことにも、苦しいことにも気付けないために、生き残る確率が低くなりますが、怒りもそれと同じで、身や心の危険を気付かせてくれる大事なサインです。
そして、それだけでなく、怒りというのは物事を推し進めるための、大事なエネルギー源でもあります。理不尽さからくる怒りは、人を動かすパワーになるのです。
怒りがなぜ発生しているのか、何について怒っているのかを正確に判断し、上手く怒りを利用すると、自分はストレスに悩まされることなく、しかし、怒りが教えてくれたヒントを利用することで仕事や勉強で結果を出すことができます。
緊張ホルモンは麻薬の一種。ドーピングで異常な業績をたたき出す人もいる
激昂しやすい人の中には、営業成績が良いなど、業務上で大きな成果を上げることができる人がいます。特に、若いうちには、多少キレやすくても職場で問題になることは少ないため、ちょっとヤバイけど、仕事ができる奴として名が知れ渡ることさえあります。
こういうタイプの人は、上司からかわいがってもらえることも多く、業務上の成果も同期に比べてすごいと一目置かれ、尊敬することもあるために、こうした人は、怒りをエネルギーにする習慣が付いていきます。そして、キレやすい習慣を年々強化してしまうために、中年期に差し掛かる頃にトラブルを抱えやすくなります。
自分自身が上司としての立場に付くようになると、自分を抑える立場にあった圧倒的に上の立場にある上司が身近にはいない状態となります。すると、こうした怒りをエネルギーにするタイプの人は、自我が強く出過ぎてしまい、周囲が引いてしまうほどに怒りを表現してしまう事でトラブルを起こします。
どれだけ好成績を残してきた人でも、現代の社会でパワハラに近い発言をしたり、怒鳴ったり、明らかなイライラを顔や態度に滲ませるといった行為が続けば、社内でも問題になってしまうでしょう。
こうした怒りをエネルギー源に生きている人は、怒りがなくては生きられない状態になるほど、怒りホルモンの分泌が常態化している可能性があります。
こうなると、眠れなくなってしまう、不安による焦燥感に悩まされるなど、心や体に変調をきたしているかも知れません。
中には、向精神薬などを利用して、本当の意味でドーピングをしてまで仕事に没頭しようとしている人もいるでしょう。しかし、あまりに長引く怒りや、抑えられないほどの衝動を放っておくと、会社を辞めざるを得ないほどのトラブルを引き起こしてしまったり、ある日突然全てが嫌になるほど無気力になってしまう事もあります。
そうなると、さらに不安が加速して、ますます怒りを感じやすくなり、周りの人もその情緒の激しさに付いていけずに離れていくようになり、さらに不安になるという超悪循環が訪れます。
親からの強いプレッシャーを受けていた人に多いのが、怒りをエネルギーにするタイプです。長引く怒りや不安の原因は、今怒りを感じている出来事というより、幼少期などの過去に対して感じている怒りがトリガーになっている事が多くあります。
親に対して不満を持っている人が、親に対してすごい自分を見せようと頑張りすぎてしまい、しかし親から期待する反応や言葉が得られないために、あらゆることに怒りを感じているという事もあるからです。
過去の怒りをエネルギーにしている時の問題点は過去を変えられない事にある
いじめをエネルギーに見返してやりたいと努力した場合や、親との不和をエネルギーにすごいと言わせてやると頑張った場合、ここには、結果が出たとしても問題が解決しないというジレンマがあります。
いじめられた過去をバネにして頑張った結果として成功を手にした人が、過去のいじめについて完全に解き放たれて周囲の人と仲良く暮らしているのならば問題はありません。
しかし、親やいじめの原因を作った加害者への怒りが、いつの間にか全ての人間に対して向けられるようになってしまうと、身近な人の全てに対してちょっとした事で怒りを感じたり、ライバル視しやすくい人になってしまいます。また、周囲が嫉妬するほどにできる人になって孤立してしまうと、例えお金があっても心が満足できないという状態に陥ってしまうでしょう。
このとき、さらに周りに認められようと稼ぐ方向に努力してしまうと、周囲の心はさらに離れていきます。頑張った結果、社内で成果を上げたとしても、周りが望んでいないのに社内が忙しくなるなど、周囲には恨まれるだけという状況を生むことになるかも知れません。
お金は、幸福のために一定量は必要です。しかしある程度満足がいく生活を送れる状態になると、人が求めるものは、安心させてくれる人間関係に変わります。人間関係を破壊してでも稼ぐという行為を続けていくと、孤独は深まり、お金を払って他人に奉仕してもらう形でしか人間関係を築けなくなってしまうでしょう。
常にイライラする、怒りを感じやすい人でそれが思わず外に出てしまうことがある人は、怒りを表現する前に、自分がなぜ怒りを感じているのかを丁寧に分析しましょう。
深いところでは、いじめの経験や、親との不和が原因かも知れませんし、現在の時間軸の上では、上司が理不尽なことや無意味なことを言っているからかも知れません。ルールを守らない人がいるからイライラしているのかも知れませんし、矛盾だらけの世界に怒っているのかも知れません。
人が怒るトリガーは相手と比較して「不当に扱われている」と感じる時
マナー違反や常識はずれな行動を見ると怒りを感じますが、それは、自分は世の中のためにルールを守っているのに、そうしたルールを守らない人間が「自分の利益」を害していると思うからです。
このように、自分が不当に扱われていると感じると、人は怒りを感じます。
話が通じない部下がいる場合、「どうして自分ばかりがこんな苦労を」と不当に感じて怒りを覚えます。上司から小言ばかり聞かされると、「自分は愚痴のサンドバックなのか」と、不当に感じて怒りを覚えます。
ですが、そこで怒りを顕にしても、部下との関係や上司との関係が悪化することはあっても、良くなることはありません。
自分がこれだけやっているのにという比較による怒りは、人間関係において最も感じやすい怒りです。
特に、部下や上司に対して必要以上に労力を使ってしまう人の場合、内心では「ここまでしているのに、どうして自分を評価してくれないのか」とか、「ここまで教えてるのにどうして頑張れないのか」と、相手に怒りを感じやすくなります。
自分が使用しているエネルギーに対して、相手は同じ量を注いでくれていない、お返しをしてくれていないと感じると、これは不当な扱いを受けている、と人は認識するので怒りに直結します。
このタイプの怒りを感じている人は、相手がお返しをしてくれないと分かっていても、いつかはお返しをしようと動いてくれるだろうと信じて、何度も何度も相手のためにエネルギーを注いでしまいます。
やってくれと頼まれていなくても、自分が満足していなくても、相手の仕事のサポートを引き受けたり、自腹でお土産を買ってきたりと常に相手との関係に気を回します。
しかし、それに見合った分の成果を回収できていないと感じるために、ストレスを溜めていくのです。
この場合、できることは、回収できない分のエネルギーは注がない、つまり、見返りを求めている自分を自覚して、見返りが見込めない行動はしない選択を取ることが大切です。
プライベートや慈善事業であれば、見返りがない中でも満足感を得ることはできますが、仕事の場合にそれを続けても、ストレスが溜まる上に成果がでないといった悪循環に陥る可能性があります。
それが仕事上でプラスになる、大きな成果に繋がる行動であるかどうかは、自分がイライラを感じているかで判断することができます。「自分ばっかりやってる」とストレスを感じるのであれば、相手を助ける行動を控えるようにしましょう。
怒りの正体を知らなければ怒りをコントロールするのは難しい
具体的にどうすれば良いのかといえば、上司との話が進まず、何の問題解決にもなっていない場合や、部下が本音をぶつけてこない事にもどかしさを感じている場合には、より本質を引き出せるように冷静に言葉を選び、相手に語りかける必要があります。
「本音で話そう」や、「つまり、〇〇について懸念しているということですか?」と、相手がオープンにしてこない本音の部分を話すように話を切り込むと、その場の流れが変わり、話が進んで取りあえずイラ付きは収まってくることもあるからです。
そして、自分ではどうにもできないことや、そこに労力を注いだところで自分にメリットがない場合には、そこに自分の大切なエネルギーを注がないと決意します。どこかで、無駄なものは無駄だとはっきり認識する必要があります。
怒るということは、実は大変大きなエネルギーを消耗することです。繰り返すうちに、脳や心臓に負担がかかっていきます。「これは絶対にどうにかしないと」と思うことであれば、怒りをエネルギーに変えて頑張るのも良いですが、そうした怒りのエネルギーは、1年に1度使うくらいで十分です。
怒りを異常に感じ易い人の場合には、怒りが癖になっていて、怒りに支配されてしまっている場合もあります。そうなると、自分で上手に怒りをコントロールすることが難しく、怒りをエネルギーにする前に、周囲にキレて、引かれてしまう場合があります。
もしも、怒りを感じやすい原因が過去の体験にあるのであれば、親がいる場合には、素直に親に本音をぶつけましょう。良い子でいる必要はなく、傷付いた経験は、傷付いたのだと、それが何十年前のことであっても打ち明けて、聞いてもらうだけで、楽になります。
それが出来ない場合や、言いたい相手と連絡が取れない場合などは、カウンセラーなどに話を聞いてもらう、吐き出す場所を作るようにします。そうやって、怒りの出どころを把握して、そこから怒りを出すことを無意味だと自分が感じなければ、怒る癖を治すこともできません。
怒る人は理想が高い場合も多い。立派な人になろうとし過ぎないことも大切
怒りを感じやすい人の中には、理想が高い人も多く、「目指すべき理想」に近づけないことで怒りを感じやすくなっている場合があります。自分の扱いが不当だと感じる原因が、世の中が自分を正当に評価していないからだという場合には、自分の理想が高くなり過ぎてしまっていることを疑いましょう。
今を生きている。生活ができている。それで十分立派です。それ以上を目指すのは、あくまで余裕があるからであり、無理に頑張る必要はありません。
理想を高くしてしまうと、日々のあらゆる事柄に怒りを感じるようになります。買い物をする時の店員の態度、エレベーターに乗る時のタイミング、電車で人とぶつかった時など、日常の些細なことの全てが「理想通り」でないと怒りを感じるようになるからです。
そうやって怒りを溜め込むと、ストレスが蓄積され、生きていくのも嫌になってしまったり、怒りを感じていることで常に目付きが悪くなったり、相手を威嚇するような態度を取ってしまい、周囲の人から疎まれ、嫌われてしまうこともあります。
怒りは、溜め込むほどに自分の人生のマイナスとなります。
そのため、エネルギー源として活用できる範囲を超えた怒りは、必ず消化するようにしなければいけません。
怒りが溜まっているな、と感じたら、それが無意味だと言い聞かせたり、気分転換に温泉やサウナに行く、運動をするなど、身体を動かして頭をからっぽにすることが大切ですが、その他に、怒りの解消に効くのが、質の良い睡眠です。
質の良い睡眠には怒りや悲しみなど湧き上がる感情を忘れるための効果がある
怒りは電気と同じです。電波となって互いに感電してしまうので、怒りを発散させないようにしないと、怒りが電線して周囲の空気が悪くなります。相手が怒っていると感じると、こちらも不安になったり、怒りやすくなるように、過剰な電気は相手側へと伝わってしまうものです。逆もまた起こりやすく、自分が怒ることで、相手も怒りを感じやすくなります。
そうして、雰囲気の悪い会社、コミュニティ、家庭ができあがってしまいます。そうならないためにも、アンガーマネジメントを覚えて、しっかりと自分の怒りをコントロールするようにする必要があります。
最も身近でできる怒りのマネージメントは、睡眠を取ることです。質の良い睡眠が取れることで怒りが消すことができます。なぜなら、睡眠には記憶を適切に処理し、感情を整理する作用があるからです。
怒りすぎていると眠りに付けないのも、悲しすぎることがあると眠りに付けないのも、まだその怒りを忘れたくない、悲しみを忘れたくないと感じているからであると言われています。
しかしこれは、緊張ホルモンのせいなのです。緊張ホルモンは、恐怖に対応するために出てくるホルモンです。本来は、事故を回避するための一瞬の間の危機回避に使われるホルモンです。
しかし、この怒りのホルモンが増えすぎてしまうと、頭を覚醒し、目覚めさせるホルモンの影響で眠れなくなります。とても悲しい出来事があった場合に眠れないのも、同じように怒りホルモンが出ているせいですが、悲しみの奥には、どうして世の中にはこんな酷いことがあるのかという怒りが隠れているなど、必ず怒りの感情が隠れているからです。
だからこそ、怒りすぎて眠れないという時には、運動をしてへとへとに疲れさせる、しっかりと食事をする、お風呂に入って疲れを取るといった身体のメンテナンスが一番大切です。心を無理やり動かすことはできないので、身体から、健康的に疲れてもらって、眠るように誘導するのです。
健康に気をつけるというのは、一番の怒りのマネージメントにつながります。また、怒りを感じやすい人は、毎日のルーティンの中に、両手をギュッと握ったら怒りを忘れたことにするなど、自分だけのお守りのような習慣を作るのも役に立ちます。
怒りの発散は、やり方を間違えれば自分を窮地に追い込むことになります。だからこそ、怒りを知り、怒りにコントロールされない自分になるようにしましょう。